ごあいさつ
『日曜討論』は平成15年の番組開始から、記念すべき10年目を迎えました。大手スポンサーがついているわけでも、何らかの公的機関によって運営されているわけでもない当番組が、これほど長く、またゆるぎない信念に基づき連営されているのは大変素晴らしいことです。小菅亥三郎先生、香月洋一先生をはじめ番組を支える方々のご尽力の賜物にほかなりません。番組の枠組み、およびこれまでのアーカイブは、すでに国民の共有財産になりつつあると思います。
インターネット時代の現在では、当番組、およびそのアーカイブは、大きな影響力を持ち得ます。有益な情報は、政治や社会の問題に高い関心を持つ人々の間で、ブログやツィッターなどを通じて、またたく間に共有されるからです。
たとえば昨年(平成24年)は、当番組の力を実感する出来事がありました。昨年7月、福岡市は高島宗一郎市長の肝いりで、今後5年間、毎年、中国の国家公務員800人を研修生として受け入れ、環境技術などさまざまな技術や施策を教えると発表しました。しかしさまざまな懸案事項を抱える日中関係に配慮しないこのような取り決めには、当然ながら非常に多くの人が懸念を覚えました。この構想の発表直後から「車事的に転用可能な技術が流出するのではないか」、「研修の取り決めが中国側に一方的に有利で福岡市側のメリットが明らかではないのではないか」などの数々の批判が、福岡市民はもとより、全国の人々から福岡市に寄せられました。小菅先生や私も、この構想に大きな疑問を感じました。
そのため、小菅先生の発案で、8月12日の当番組で、この中国国家公務員研修問題を取り上げ、批判しました。出演者は、小菅先生、私、そして私たちと同様、この問題に警鐘をならしていた富永周行・福岡市議です。その後、福岡市民や全国の人々からの批判がいっそう高まったこと、ならびに、尖閣列島をめぐって日中関係が悪化する事態が生じたこともあり、福岡市のこの構想は中止になりました。批判の高まりには、当番組も大いに貢献したことと思います。
私は思うのですが、当番組が毎週、福岡から発信されていることは非常に象徴的です。九州、そして福岡という土地は、いうまでもなく防人の土地です。明治維新を支えた志士たちも、九州やその近辺から出ました。九州・福岡は、束シナ海や玄界灘に面し、良くも悪くも古くから日本と外国との接点でした。外国との実際的な接触のなかで、日本や世界に対する現実的認識やその認識に裏打ちされた愛国心を育む土地柄が、九州・福岡にはあります。また中世より続く自治都市・博多の伝統や、明治から昭和にかけて躍動した玄洋社の精神にみられるように、ときの権威や風潮に媚びず、惑わされず、己の信念を貫く自律心と強靭さも九州・福岡の特徴です。
日本は、これからしばらく非常に緊迫した国際情勢のなかで生きていかなければなりません。『日曜討論』が、歪んだ戦後の言論空問を是正し、激動の時代を乗り切るための確固とした道標の役割を今後いっそう果たしていくことを願っております。