国難~国民が選べない官僚、有識者
日本再発見・本篇第140弾 全6回 令和2年10月25日~11月29日放送
番組の趣旨
菅内閣は、発足早々、行政の改革を打ち出しました。菅首相は、元々、地方分権改革を目指して国政を志した改革派です。弊害が除去できるのか、半年後にはなかったことにされているのか、注目していきたいところです。
わが国の債務は2020年度、国・地方を合わせて約964兆円に達し、財政が危機的な状況にあることは言うまでもありません。かねてより、こうした状況を打破すべく、行政改革が行われ、政策評価が実施されてきました。しかし、現状は財政危機はさらに進行し、行政改革によって財政状況が好転したとは言い難く、また政策評価も多大な労力をかけて実施されているものの、それらが政策の大規模な見直しに結びついたケースはほとんどありません。一口に「行政改革」と言っても多様です。コストとは関係なく、行政サービスの質の向上を目指す改革から、コスト削減を主たる内容とするなど、その目的は一様ではありません。
行政活動には様々なものがありますが、その中心は国民生活の安全安心を目的とする社会保障、教育、安全規制等の種々の行政サービスの供給です。それは、多額の国費の投入によって行われる組織的活動で、当然のことながら多数の公務員によって担われています。こうした行政活動を実施するに当たり、必要とされる経費に対し予算が不足しているときに採り得る策は基本的に3つしかありません。第1に、現在のサービスの供給量を削減し、あるいは質を下げること。これは国民の反発を招く以上、政治的に選択し難いです。第2に、それに当てる予算を増額することです。他に財源がなければ増税等によって収入を増やすしか有りません。しかし、これも国民にとって不評です。そこで第3の方法は、要求されるサービスの質量を減らすことなく、かつ現在の予算額の下で、サービスの生産・供給過程を効率化する方法です。
わが国の行政改革は、これまでは、この第3の方法を中心に実施されてきました。しかしながら、初期の国営企業の民営化等を除いては、求められる行政サービスの増加に比して実質的な経費の削減効果はそれほど大きくありませんでした。
行政活動は、国民に対して供給されるサービスとその担い手である行政組織、そして組織で働く公務員の3要素で構成されています。これらの3つの要素は密接に結びついています。しかし、わが国の行政改革は、これまで基本的に最終的な産物である行政サービスの質量は削減することなく、行政組織の統合再編や公務員数の削減によるスリム化、効率化を目指してきました。小さな組織、少ない公務員数でそれまでと同様のサービスを供給できるのであれば、それは望ましいことですが、それには限界があり、効果も限られています。
公共事業の分野では、近年大幅な事業の縮減が実施されてきましたが、今日、行政サービスの大半を占める社会保障等の給付行政の分野では、サービスの質量とは国民の適格者に対する給付の量と質の在り方であり、給付額が拡大しつつあるとき、それを大きく削減することは容易ではありません。
以前のように財政が多少悪化しても、まだ経済成長によって事態の改善が期待できる時代はともかく、今日のように財政が危機的な状態にあっては、財政の改善を図るにはサービス本体の必要性を見直さなければならないのではないでしょうか。
今回のシリーズでは、『国難~国民が選べない官僚、有識者』をテーマに、行政活動の3要素である行政組織、公務員、そして国民に対して供給されるサービス本体の「ムダ」について視聴者の皆様と共に考えて参りたいと思います。
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